利根地方の民話
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  利根郡地方の民話  第2話
        
                              こうがい堀
へび  

利根郡新治村上牧の大峰山に、大峰沼という沼があります。むかし、大峰沼は東村、西村の2つの村落に分かれていました。

 東村には、東村の長者が、西村には、西村の長者がいて、それぞれ村の大半の土地と財産を持っていて、
多くの召使いを使って、勢力を競っていました。
 西村の長者には、3人の美しい娘がいました。松子、竹子、桜子という3姉妹です。

 ある年のことでした。その年、西村はひどい旱魃で、田畑は、からからに乾き、何も稔りそうにありません。
それなのに、大峰沼の水を利用していた東村の田畑には、水が満々として、西村の干害など、何処吹く風と
、豊かな収穫が約束されていました。
 西村の長者は、この様子を眺めながら、何とかして、大沼の水を村へ引き込めないかと思いました。

 長者は若い者を集めて
 「大沼の水を、この村に引き込んだものに娘をくれよう。そしてこの家のあととり婿にする。」と言いました。
力自慢の若者達が、次々と、挑戦しましたが、誰も、固い岩山を掘り抜いて、水を引き込むことは出来ませんでした。

しかし、長者は諦めません。村の外にまでお布令を広げて力持ちを募集しましたが、なかなか成功しませんでした。

 ある日、色白な相撲取りのように、大きくて力のありそうな、美男子が屋敷へ来ました。
 「私が、大沼の水をこの村に引き込んで見せます。その時には、きっと娘さんを私に下さい。」
と自信たっぷりに言いました。
 「おまえはあまり見かけぬ若者だが、どこのものじゃ。」 若者は大沼の方を指差して、
 「向こうの方に住んでいます。」と、答えました。
 「やってみてくだされ。約束はまもる。」若者は、もう成功したように
 「約束は、きっと守ってください。」と広い背中を見せて、嬉しそうに庭を出ていきました。
ところが、長者はその後ろ姿を見て、驚きました。 若者には影がないではありませんか。

ーこれはただ者ではない。何かが化けているに違いない。こんな化け物に娘をくれてやるわけには行かないぞ。
 困ったことになったわい。ー  と心の中でつぶやきました。

 長者は3人の娘を集めました。
 「実は、さっきの若者が、水を引くことに成功すると、おまえ達の中から誰かをよめにやれねばならない。
 お松。」
 「あの人、顔や姿はきれいだし、体格も立派だけど、あの目がなんだか怖いわ。」
 「お竹、おまえはどうだ?」
 「私も君が悪いわ。」
 と言って2人とも「いやだ。」と言います。
 3女の桜子は
 「お姉さん達がだめなら、村の人のために、私がお嫁さんになります。お父様、亡くなったお母様が、遺して
 くれたこの簪(こうがい)で、朝、1番鶏が鳴くまでに、水を引くように、命じてください。」


  翌日もまた、その若者が来ました。そして、3女が承知したことを聞くと、大喜びで、桜子の出した条件を
受け入れました。
 若者は簪を持って大峰山に登り、夜になるのを待って、早速堀を作り始めました。
この若者にとって、掘る道具は何でも良かったのです。たちまち、もう1息と言うところまできたとき、
桜子は激しく戸を叩いて、鶏を起こしました。

  驚いた鶏の親方は、1番鶏に、朝の刻を告げるよう命じました。それのつられて、村中の鶏が、一斉に
声を、張り上げて鳴きました。
 これを聞いて驚いたのは若者です。簪を抛り出すと、あっという間に、真っ白い大蛇になって、暴れ出しました。
そして大沼を囲むやまを崩すと、そこから山崩れが起きて、大沼の水が土砂と一緒に流れ出し、西村は
すっかり呑み込まれて、全滅してしまいました。もちろん、長者も3人の娘たちも、土砂に埋まってしまいました。

 その時に、大蛇の掘った跡は<簪堀>として、今も遺って、山々の清水を集め、吾妻川の渓流に注ぎ
季節ごとに、美しい表情を見せて、多くの人々を楽しませています。