利根地方の民話
お不動様のねずみ こうがい堀 雀と婆っさま 猫と和尚さん 月のうさぎ
 
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  利根郡地方の民話  第3話

                             雀と婆っさま
 
 

 「むかし、鎌田の宿にやさしい婆っさまがいたんだとさ。」
 外はもう雪が三日も続けてふっています。金精峠を越えて、日光から来る旅人も絶えて、宿場町は、
昼間でも眠ってしまったように静かです。
 
 お爺さんは、キセルを吹いて、スポンと煙草の火を、炉火の中に捨てると、孫の私を相手に昔話を始めました。
 「今日はな、毎日のように、庭さあ飛んできて、優しい婆っさまが投げてやる餌を食う、スズメ達の話をするべ。」

ーそれは山に、桜の花が満開の春のことじゃった。ー

 この村の、スズメ達は、すっかり,婆っさまに慣れて、肩に止まったり、手に乗ったり、入れ替わり立ち替わり、
楽しく遊んでいったんだと。 爺さまに先立たれて、淋しかった婆さまは、このスズメたちと仲良くしていることが
うれしくて、うれしくて、まるで自分の子供みてえに可愛がったんだと。
 
 んだがよ、隣に住んでいる意地悪婆さまには、これが目ざわりで、「チュンチュン」鳴く、スズメが、うるさくて仕方
なかった。
 
 ある日、このいじわる婆っさまが、石を投げると、優しい婆っさまと、いちばん仲良しのスズメにぶつかってな、
石に当たったスズメは、羽を怪我して、しばらくバタバタしていたが、どうしても飛び上がることが出来なくて
、動けなくなってしまった。やさしい婆っさまは、ぶっ飛んでいって、スズメを抱き上げると
 「ひどいでねえか。おめえに何も悪さしたわけでもねえのに。」

 「へん、あんまりチュンチュンなきやがってうるせえからさ。だから、石をぶつけてやっただ。ざまあみろ、みんな
逃げ出して、一羽もいなくなって、静かになったべ。」と、気持ちよさそうに言うと、家の中に入って、
ピシャと、戸を閉めてしまったそうな。

  「かわいそうに、かわいそうにのう。」やさしい婆っさまは、怪我したスズメに、薬を付けてやったり、箱の中に
入れたりして看病した。
 そんなことで、何日かすると、スズメはすっかり元気を取り戻し、
「チュンチュン」とみんなのところへ帰っていっただ。ところがその怪我をしたスズメはそれきり帰って来なかった。
 
 いじわる婆っさまは、
 「ほうれみろ、恩知らずのスズメだのう。おめえがあんなに大切に世話したのにのう、かえってこねえ。
そんなのに性懲りもなく餌まいて、おめえは馬鹿だなあ。」と言って、手を叩いて笑った。

 その後、婆っさまは心配で、いてもたってもいられねえ。怪我の具合が悪いんじゃねえか、それとも
隣の婆が、おっかなくて、もうもどってくれねえのか。

 とうとう我慢できねえで、帰ってこない、スズメを探しに出掛けることにした。
 
      ーおらんつのスズメっこは どこだぁ。おらんちのスズメっこはどこだぁ。ー

杖を引きずって、探して歩く婆っさまのすがたみて、むらの人達は
 「あの婆っさま、裏切りスズメを、さがしまわってるということじゃが、とうとう気が狂ってしまったんかなぁ。
可愛そうにのう。」とひそひそ話をしておったが、そのうちに子ども達は
 
  ースズメの婆さん  気が狂うた   おらんちのスズメっこはどこだぁ  おらんちのすずめっこどこじゃいなー


と、真似をして、はやし立て笑いものにするようになってよう。そんでも婆っさまは、毎日杖をついて探しに
でかけただ。
 「スズめっこ、どこさいっただー、しんじまったんじゃなかっぺなあ、はよ帰ってこうやー。」
スズメが、飛んでいった空見て、なみだながしている婆っさまは、本当に気が狂ってしまったように見えた。

 春が行って、夏も過ぎて、回りの山っこがきれいに紅葉さしてな、田畑さ豊かに稔ってさ、すっかり秋になった
けども、婆さまは空ばっかり見て涙ながしていただ。
 
  すると、ある朝のこと、あの懐かしい仲良しスズメの声がきこえてきただ。
 「おーい、どこにいるんじゃー、はよ来ーい。」
すると、高え雲の割れ目から、一羽のスズメが一直線にすっーと下りてきて、婆っさまの手のひらに乗っかった。
 そんで、スズめっこは、ちっちゃな手にしっかり握っていたなんかの種を婆っさまの手の上に置いて、
 「おばあさん、ごめんなさい。これを春になったら蒔いてください。」ーチュンチュンー鳴いた声が婆っさまには
そうきこえただと。 それからしばらくの間、昔のように、肩に乗ったり頭に乗ったりしながら遊んだんだと。

 村の人や、子ども達はそれを見て安心した。今までみんなで、馬鹿にしたり、からかったことが恥ずかしかったんだ。
みんな、もともと、心の優しい人達だったんだ。

 春が来た。婆っさまは、一粒の種を庭に蒔いた。 夏になると、でっけえひょうたんみてえな実が3つなっただ
1番目の実を切ると、中から、小指くれえの職人達が、ぞろぞろ、ぞろぞろ出てきたんだと。大工も左官も、屋根屋も
<雀>って書いた、半天を着てびっくりしている婆さまに 「いいあんべえで。」といいながら、すぐに仕事に取りかか
って、あっ、と言う間に、新しいいえを建ててしまったんだと。
 
 2番目の実からは、ふわふわっとかむ理が出てきて、煙の向こうから、何と、死んでしまった爺っさまが歩いて
くるでねえか。 婆っさまは嬉しくて
 「爺っさま、お前様、本当におらの爺っさまだあ。」と言ってな、あとは口をもぐもぐさせて、わあわあ泣き出した。

 さていよいよ、3番番目の実を切ると,あたりが一瞬、光に包まれて、ぐるぐる、ぐるぐる回りだした。
婆っさまは、目を回して、気を失って倒れてしまった。
 どれくらいたったかなあ、ずーっとのようなきもするし、すぐだったようなきもするし、わかんねえけど、きがつくと、
回りはすっかり変わっていてのう、寂しい「鎌田の宿」は、町になっていたんだと。

 新しい町んなかで、新しい家に住んでも、婆っさまは、昔のようにかわいいスズめっこに、餌をまいて、爺っさまと
仲良く暮らしたとさ。
「いじわるの婆っさまはどうなった?と、さあどうなったべか。」

 外は相変わらず雪が、こんこん降っていて、話し終わった、お爺さんは相変わらずキセルで、上手そうに
 煙草を吸っています。