利根地方の民話
お不動様のねずみ こうがい堀 雀と婆っさま 猫と和尚さん 月のうさぎ
 
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利根郡地方の民話  第5話

                       月のうさぎ

うさぎ

むかし、このあたりの山に、うさぎの母子がいてな、ある時、子うさぎが、神様にお使いを頼まれたそうな。
「この手紙を西の、お日様が沈むところの、神様に届けてくれまいか」
「いつも、私たち母湖を、見守ってくださる、神様のためですもの、喜んでいって参ります。」
「ありがとう。途中どんな危険があっても、大丈夫なようにおまえに誰よりも早く走れる足を与えよう。おなかがすいたら
この袋を、開きなさい。お母さんは、私のそばにいるから心配しなくて良いよ。逢いたくなったら、月を見なさい。
おまえの大好きな、餅をついている、お母さんの姿があります。あとはおまえの勇気と、知恵で、大事な役目を
果たして下さい。」
 子うさぎは「お母さんを宜しくおねがいします」と言うと、神様の手紙を背負って、山を下っていきました。

 初めて山を下る、子うさぎのは、何を見ても、珍しいものばかりです。
家々の並んでいる町の屋根の上を風のように走りました。人々はそれを見上げて
「まだ秋だというのに、風花が飛んでいく」と、大騒ぎをしていました。

 町はずれで、大きな犬と出会って追いかけられましたが、子うさぎの速さに犬はとても追いつけません。
犬は、とうとう諦めて戻っていきました。

 町を過ぎると広い広い野原に出ました。振り返ると、紅葉の山々は遠くなっていました。ちょっとだけ寂しいとおもいま
したが、それよりも、なん倍もうれしさの方が多かったのです
 
 大きな川に出ました。子うさぎはお腹か空いてきたので、土手に腰を下ろして、神様にいわれたとおり、袋を広げると
、大好物のつきたてのほかほかのお餅が入っていました。食べようとすると、今にも倒れそうな、がりがりに痩せた
ネズミが出てきました。かわいそうにと、思った子うさぎは、自分が食べるのを我慢して、お餅を分けてあげました。
ネズミは喜んで、一つも残さずに、みんな食べてしまいました。
  
 「うさぎさんありがとう、助かりました。この御恩は忘れません」
子うさぎは、泣きたいほど、お腹が空いていたのですが、がまんするより仕方ありません。からっぽになった袋を、腰に
下げて、出掛けようとすると、ネズミが「この先に悪智恵の働くキツネがいますから、だまされないように、気をつけなさい。」
と、注意してくれました。

 ネズミと別れ、川に沿って、下流に向かって、しばらく行くと、道は、森に入りました。するとネズミが言った通り、大きな
木の陰から、キツネが出てきました。
「そこを行く、かわいい、うさぎさん、何をそんなに、急ぐのですか、私の家でお茶でも飲んでいきませんか?」
と、にこにこ話しかけてきましたが、子うさぎは油断しません。
「ご親切ありがとう、でも、いそいでいますから。」と言うと、素早く、キツネの横をすり抜けてしまいました。
たちまち本性を現したキツネは「せっかくのごちそうを、黙って通すわけにはいかない。」とキバをむいて、追いかけてきました。
 
神様からもらった、速い足には、ずるいキツネも、追いつける訳がありません。それでもキツネは諦めずに追ってきます。
向こうに橋が見えました。子うさぎが渡りかけると、キツネは「しめしめ、うまくいったぞ。」とニンマリ笑いました。
 
 この橋はキツネが術で架けた<幻の罠の橋>だったのです。この橋は獲物が渡りかけると、消えてしまって、下へ
ドス−ンと、落ちる仕掛けになっていたのです。ところが子うさぎは、その幻の橋を、どんどん、橋が消える前に、向こう岸
まで渡ってしまうではありませんか。

 「何という、スピ−ドだ、どうしたことだ。」キツネはびっくりしてしまいました。こうさぎが、渡りきると、橋はやっと消えました。
向こう岸の子うさぎを見て、キツネは、口を開けたまま、しばらく呆然としていました。橋が消えるより、うさぎの足の方が早い
なんて、キツネには信じられません。子うさぎは振り返って、くやしがるキツネの方へ「ここまでおいで。」と
手を打って得意になりました。
 
 その時です。子うさぎの身体がすっと空中に浮かび上がったのです。少々、得意になりすぎた子うさぎは、空の敵に対して
すっかり油断していたのです。オオワシはそれをずっと狙っていたのです。どんなに足が速くても、空中につり下げられては
どうにもなりません。子うさぎは自慢の足をバタバタ動かすだけです。
 
 すると、どこからか突然カラスの大群が、オオワシをおそってきたのです。獲物の子うさぎを横取りに来たのでしょうか。
あわれたオオワシは、子うさぎを、鋭い爪から放してしまいました。子うさきは高い空中から逆さまに地上に落ちていきます。
地面がどんどん近づいてきます。子うさぎは「ああ、もうだめだ。神様ごめんなさい。」と叫ぶと、あら、不思議、
地面すれすれのところで、一羽の大カラスが、子うさぎを背中に乗せるとそっと降ろしてくれました。

 「もう、油断してはいけませんよ。」 それはお母さんの声のようでした。大カラスはそう言うと遠くの山をめがけて飛んで
言ってしまいました。
 
夜になりました。今日はs色んな事が、いっぱいあって子うさぎはすっかり疲れ切ってしまいました。
一番星が、チカチカ光って、月が上がりました。見上げると、神様がいったとおりお母さんが餅をついています。腰の袋には
、あたたかいつきたての餅がありました。餅を食べると、淋しくなっていたこうさぎは、また元気を取り戻しました。

 次の朝、豊かに稔ったたんぼで、お米を啄むむ雀たちの声で目を覚ました子うさぎが、草の葉に集まっている、水晶のような
水を飲むと、何ともいえない甘さがあって、それは、生まれてはじめての、うまさでした。
 
  旅はまだまだです。

また、川の沿って、どんどん下っていくと、海に出ました。秋の日に、燦々と輝く海を見て子うさぎは、ビックリしてしまいました。
どどーんと、上がった大きな波は、まるで海坊主が、両手を広げて襲いかかってくるようです。
子うさぎは、岬のすすき野茂みの中で、神様のお使いを、忘れてしまうかと思うほど、偉大な海にすっかり、感動していまい
ました。しかし、感動ばかりしてはいられません。日の沈むところの神様は、この海の向こうにある島に数でいるのです。
 
 空を、見上げるとカモメが気持ちよさそうに飛んでいます。あっという間に沖に消えてしまったかと思うと、また、あっという
間に戻ってきます。(僕には、誰にも負けない、足はあるけれど、カモメさんのように空を飛ぶことは出来ない。)

  こうさぎは、考えましたが、どうしても良い智恵が浮かびません。南の国へ帰るツバメが手を振って、
「うさぎさん、さよなら」と、去っていきました。少し早めにこおりついた北の国からやってきた、カモたちが海に長い水飛沫
を引いて着水します。太陽が落ちようとするとき、空も、海も真っ赤に染まりました。それから、オレンジ色の雲がたなびいて
薄水色の夕方が来ました。そして、あっという間にお日様が沈んで、すぐに、夜になりました。
子うさぎは、空の端っこに上がったお月様に 「おかあさ−ん」と、叫びました。けれどもあまりにも遠くてその声はこの声は
お母さんに届きません。
 
 悲しくなって、今にも涙がこぼれそうになりました。すると、どこからか「うさぎさ−ん」と呼ぶ声がかすかに聞こえました。
周りを見回すと今度ははっきりと聞こえました。あの餅を分けてあげたネズミが出てきたのです。

「この間のお餅のお礼に良いことを教えてあげます。明日お日様が昇ったら、海に大きなクジラが現れます。そのクジラは
お餅が大好きです。お母さんにお願いして、お餅を山のように積んでください。そうすれば、きっと向こうの島へ渡ることが
出来るでしょう。心配しないで、今夜はゆっくり休んでください。」ネズミはそれだけ言うと姿をけしてしまいました。
 
 次の朝、目を覚ますと、ネズミが言ったようにクジラが3頭、悠々と泳いでいます。浜辺には見上げるような、お餅の
山があります。「クジラさ−ん。お餅をあげますよ−」  子うさぎはお餅をどんどん海に放り込みました。
クジラは急いで浜の方へ泳いできました。

「うさぎさん、ありがとう。向こうへワタルのなら、私たちが、いま橋を架けてあげます。」
と言うと、3頭が勢いよく、汐を吹き上げました。なんと、なんと、真っ青な海に、3つの大きなア−チの、美しい虹の橋が
日の沈む神様のいる、西の島へ架かりました。子うさぎは踊りながら、この橋を渡りました。そして、見事に日の沈む
神様に、大事に背負ってきた、手紙を渡しました。

 りっぱに役目を果たしたのです。喜んだ神様は、このうさぎの母子の像を作って月に建てました。

 今、お月様の中で餅をついているうさぎは、このうさぎの母子なのです。